『アルタッドに捧ぐ』

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金子薫の『アルタッドに捧ぐ』を読んでいました。

シュールレアリスム的というか不思議な小説で、自分の書いた物語のなかの登場人物、トカゲの「アルタッド」がこちらの現実世界に現れて、彼を飼育するという話です。

主題構成はかなり緻密に作っていると思うが、ぼくはそれを読みきれなかった。「書く」こと、「物語」、「恍惚」、「死」、「生」等が恐らくは作者の頭の中できれいに整頓されて論じられているが、それがどう紐解けるのかその糸口がぼくにはつかめなかった。いちばんわからないのは、「書く」こと=「天上的なものを引きずり下ろす行為」と作者は定義しているが、ぼくの定義では「言葉」=「神」であるから作者の定義から語られる内容がどうもわからない。「言葉」=「神」というのは聖書的な考え方で、ぼくはやはりそれを信じている。

この小説も登場人物が少なく、他者は「元カノ」がひとり出てくるきりである。あとは作者の思索だけで話が進んでいく。それでも主題は論じきっていて、きちんと小説として話が綴じてある。

しかし扱う内容に反して、すこしも「悲痛さ」のない小説である。作者は村上春樹的にどこか達観してラフであり、人生がうまく行かなかったとしてもさほど悲観しなそうである。僕はやはり生命に切迫したもの、狂気に接近したもの、人間というものをすれすれまで問い詰めたものを面白いと思う。また、それらをこそ読む価値のあるものと思う。

うまい小説であるがラフに徹していて、ぼくはほとんど興味を惹かれない。

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